この記事のポイント3点
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セールアンドリースバックの基本情報
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セールアンドリースバックのメリット・デメリット
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セールアンドリースバックの仕訳・会計処理
このページのもくじ
セールアンドリースバックとは
自社所有の不動産を活用して資金調達を行うことを検討している企業も多いと思います。不動産を売却することでまとまったお金を一度に手に入れることが可能ですが、不動産を使用できなくなるといったデメリットがあります。
そこでおすすめするのがセールアンドリースバックです。セールアンドリースバックとはどのようなものなのか、仕組みやリバースモーゲージとの違いを詳しく見ていきましょう。
セールアンドリースバックの仕組み
セールアンドリースバックとは、自社所有の不動産を売却すると同時に賃貸借契約を結ぶ仕組みです。
一般的な不動産売却では、不動産の買主は使用を前提として不動産を購入するため、売主が使用を継続することはできません。
しかし、セールアンドリースバックでは、買主は賃貸として貸し出すことを前提に不動産を購入します。そのため、売主は不動産を売却後も、賃貸借契約を締結することでリース料を支払いながら不動産の使用を継続することが可能です。
例えば、自社所有の事務所でセールアンドリースバックを利用した場合、売却代金を会社の運用資金に充てられる一方、リース料を支払いながら事務所を引き続き使用できます。
リバースモーゲージとの違い
リバースモーゲージもセールアンドリースバックと同様に、自己所有の不動産を活用した資金調達の選択肢の1つです。
リバースモーゲージとは、不動産を担保に融資を受けられる仕組みです。どちらも不動産の使用を継続できるという点は同じですが、以下のような違いがあります。
| セールアンドリースバック | リバースモーゲージ |
仕組み | 不動産売却後に賃貸借契約を締結する | 不動産を担保に融資を受ける |
借入 | なし | あり |
所有権移転 | する(買主に移転) | しない |
担保 | 不要 | 必要 |
対象 | 個人・法人 | 個人 |
特徴 | 売却によって所有から賃貸に変更する 資金用途は自由 | 最終的には不動産を売却 資金用途が制限される |
リバースモーゲージは個人の不動産を対象としているため、法人の不動産ではサービスを利用することが通常はできません。また、リバースモーゲージで受け取れるのは金融機関の融資なので、事業用資金としては使用できないといったように資金用途を制限される点がセールアンドリースバックと大きく異なります。
セールアンドリースバックのメリット
セールアンドリースバックを利用するメリットには、以下の4つが挙げられます。
- 維持コストの削減
- 資金用途に制限がない
- 物件を継続して利用できる
- 資産のオフバランス化が可能
維持コストの削減
セールアンドリースバックを利用すると、自社所有の不動産の所有者が買主に変わります。そのため、不動産の所有者が負担する固定資産税、建物の管理費用や保険料などの維持費は買主が負担することになります。
つまり、セールアンドリースバックを利用した場合、従来会社が負担していた維持コストを負担せずに済むため、維持コストの削減につながるのです。
また、不動産の売却によって売却損が発生した場合、法人税の削減にもつながるでしょう。
資金用途に制限がない
不動産を担保に金融機関の融資を受けることも可能ですが、資金用途が制限される場合が多いです。また、資金用途が制限されていない場合でも、融資を受ける際に何に使用するか明確にしなくてはならないといったように、手間がかかる場合も少なくありません。
しかし、セールアンドリースバックで受け取るお金は不動産の売却代金なので、資金用途が制限されることはなく、自由に使うことが可能です。
物件を継続して利用できる
自社所有の不動産を売却することによって資金調達することも可能です。しかし、一般的な不動産の売却は買主が不動産を使用することを前提として購入するため、売主は不動産を継続して使用することはできません。
セールアンドリースバックでは賃貸として貸し出すことを前提に不動産を購入するため、売主は売却後も買主と賃貸借契約を締結することで不動産を継続して使用できます。
社有の事務所や社宅などでセールアンドリースバックを利用した場合、リース料を支払う必要はあるものの、これまでと変化なく事務所や社宅などを使用できるのです。
資産のオフバランス化が可能
法人が保有する不動産は、貸借対照表に計上します。しかし、セールアンドリースバックを利用した場合、社有の不動産ではなくなるため、貸借対照表に計上されなくなります。
法人の貸借対照表に計上される項目が減る(オフバランス化)ことによって、貸借対照表をスリム化し、ROAの改善を図ることが可能です。
売却代金を借入金の返済に充当すれば、資金繰りの改善にもつながり、キャッシュフローの安定化を図ることにもなるでしょう。
セールアンドリースバックのデメリット
セールアンドリースバックを利用するデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- リース代が発生する
- 買取価格が安いケースが多い
- 利用について制限が加わる
リース代が発生する
セールアンドリースバックによって自社所有ではなくなることで、不動産の維持コストを軽減できます。
しかし、これまで発生していなかった不動産を借りるためのリース代が生じるという点に注意が必要です。セールアンドリースバックでまとまったお金を確保できても、リース代の負担が重くのしかかっては意味がありません。
セールアンドリースバックの利用を検討している方は、不動産の維持コストとリース代を比較してから利用すべきかどうか判断しましょう。
買取価格が安いケースが多い
セールアンドリースバックでは、リースバック会社が不動産を購入し、売主と賃貸借契約を締結して不動産を貸し出します。売主との賃貸借契約の終了後は、貸し出していた不動産を売却します。
築年数の経過とともに不動産の資産価値が下落するため、買取価格を決める際は売却時の資産価値の下落を考慮しなくてはなりません。その結果、買取価格は市場の相場と比べると2~3割程度低くなります。
社有の不動産を引き続き使用する予定がなく、少しでも多くの現金を手に入れたい場合はセールアンドリースバックではなく、通常の不動産売却を選択したほうが良いでしょう。
利用について制限が加わる
社有の不動産の場合は、経年劣化に伴う改修、模様替え、建て替えなどを自由に行うことが可能です。
しかし、セールアンドリースバックを利用した場合には、不動産の所有者ではなくなるので改修や模様替え、建て替えなどを独断で決めることができません。
仮にどうしても改修や模様替え、建て替えなどを行う必要が生じた場合には、独断ではなくリースバック会社の許可が必要です。不動産の利用が制限される点は大きなデメリットと言えるでしょう。
セールアンドリースバックの仕訳・会計処理
セールアンドリースバックの仕訳・会計処理の方法は、どの取引形態を選択したかによって異なります。セールアンドリースバックの主な取引形態は以下の3つです。
- ファイナンス・リース取引
- オペレーティング・リース取引
- 金融取引
ファイナンス・リース取引
ファイナンス・リース取引とは、利用者のリース料によって取引高がカバーされる契約です。売却時とリース時の仕訳・会計処理は以下の通りです。
【契約条件】
- 取得価格:5,000万円(鉄筋コンクリート造)
- 減価償却:3,000万円(累計)
- 買取価格:1,500万円
- リース料:30万円/月(5年契約)
【売却時】
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 15,000,000 | 建物 | 50,000,000 |
減価償却累計額 | 30,000,000 | ||
固定資産売却損 | 500,000 | ||
長期前払費用 | 500,000 | 固定資産売却損 | 500,000 |
一般的な不動産売却とほぼ同じ仕訳・会計処理ですが、売却損の全額を長期前払費用として計上する点が異なります。
【リース時】
借方 | 貸方 | ||
リース資産 | 14,500,000 | リース債務 | 14,500,000 |
リース債務 | 300,000 | 当座預金 | 300,000 |
リース開始時にリース資産とリース債務の両建て処理を行います。その後、リース支払時にリース債務を取り崩していきます。
リース料は前払いなので、1回目の利息は発生しません。2回目以降は支払額とリース債務の差額を支払利息として計上します。
オペレーティング・リース取引
オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引には該当しない契約です。ファイナンス・リース取引とは異なり、売却とリースで個々の契約として扱います。
売却時とリース時の仕訳・会計処理は以下の通りです。
【契約条件】
- 取得価格:5,000万円(鉄筋コンクリート造)
- 減価償却:3,000万円(累計)
- 買取価格:1,500万円
- リース料:20万円/月(5年契約)
【売却時】
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 15,000,000 | 建物 | 50,000,000 |
減価償却累計額 | 30,000,000 | ||
固定資産売却損 | 500,000 |
売却時の仕訳・会計処理は、一般的な不動産売却(資産売却)と同様です。
【リース時】
借方 | 貸方 | ||
リース料 | 200,000 | 当座預金 | 200,000 |
オペレーティング・リース取引の場合、リース料を支払うたびに費用を計上します。
金融取引
金融取引とは、建物を担保として融資が認められる場合における取引です。金融取引として処理する場合の仕訳・会計処理は以下の通りです。
【契約条件】
- 買取価格:1,500万円
- リース料:30万円/月(0.1%利息)
借方 | 貸方 | ||
預金 | 30,000,000 | 借入金 | 30,000,000 |
借入金 | 300,000 | 預金 | 303,000 |
支払利息 | 3,000 |
上記のように、入金額と支払総額の差に応じて利息額が決まるようなケースを金融取引と見なして、建物を担保とするローンを同じように会計処理をすることが可能です。
セールアンドリースバックの注意点
セールアンドリースバックを利用した場合の仕訳・会計処理では、以下の2つの点に注意が必要です。
- 仕訳・会計処理の方法は契約内容で異なる
- 転リースが発生すると仕訳・処理が変わる
仕訳・会計処理の方法は契約内容で異なる
セールアンドリースバックを利用する場合における仕訳・会計処理の方法は、自分で自由に選択できるわけではありません。
ファイナンス・リース取引、オペレーティング・リース取引、金融取引のいずれになるかは契約内容によって異なるので注意してください。
ファイナンス・リース契約は途中解約できない契約です。一方、金融取引になるのは利子が定められている契約の場合で、どちらにも該当しないのがオペレーティング・リース取引です。
契約内容をしっかり確認してから仕訳・会計処理を行いましょう。
転リースが発生すると仕訳・処理が変わる
転リースとは、リース先の変更です。セールアンドリースバックでは、不動産を買い取ったリースバック会社との間で賃貸借契約を締結します。しかし、リースバック会社が賃貸中の不動産を第三者に売却することも少なくありません。
リース会社が不動産を第三者に売却した場合は、不動産の所有者が変わるためリース先が変更する、つまり転リースとなります。
転リースとなったものの、契約条件が変わっていない場合には特に対応は必要ありません。ファイナンス・リース取引のまま契約を継続する場合も同様です。
しかし、転リースで契約条件が変更になった場合には、手数料や繰り越しなどの会計処理が必要になるので注意してください。
まとめ
セールアンドリースバックとは、不動産をリースバック会社に売却することでまとまったお金が手に入る一方、リースバック会社と賃貸借契約を締結することで売却した不動産を継続して使用できる仕組みです。
所有する不動産を現金化する手段の1つですが、メリット・デメリットがあるため、特徴をしっかり理解してから利用するかどうかを判断しましょう。